「そういや、きみはどうしてあんな辺鄙なところに取り残されているんだい」
ふと気がかりになって、右後方を無言でついてくる五〇〇番に訊いてみた。
「それがあなたの命令だからです、いるか様」
「命令? いるか様の?」
「はい。わたしはあの地点に留まり、あなたの指定した方角を通行規制するよう、命令を受けています」
ということは、と僕は思った。
「きみの主人は、そのいるか様なのだろうか」
「首肯します、いるか様」
五〇〇番は僕に何かをいいたがっているようでもあり、僕に何かをいわれたがっているようにも見えた。けれどその何かが僕にはわからなかったし、ふたたび彼女の白い顔を覗いてみてもまるで表情なんてものは見受けられなかったから、したかなく僕も五〇〇番も歩きつづけた。それは僕の気持ちが五〇〇番の直面する方向に傾きかけたからかもしれなかった。西の山脈の向こう側に輪郭のはっきりした太陽がさしかかっていた。
僕は何だか、たびたびこの土地に訪れているという錯覚を感じた。春になると、僕はこの道に出かけていく。広大無辺の自然と芽吹きを分かち合い、過去から吹いてくる重い風を受け止める。四つ辻では五〇〇番が通行止めを行っていて、僕は車から降り、そこからは歩いていく。五〇〇番が右後方についてくる。僕たちは歩いていく。
夜になると、僕たちは歌を歌う。歌っているのは僕だけなのだけど、僕が歌うことで、僕たちはふたりで歌っている気分になることができる。それから星のことを話す。僕が五〇〇番に過去や未来のことを訊ねて、彼女がそれに答える。宇宙はどこまでつづいているの、と訊くと、どこまでもつづいています、とかえってくる。それじゃあどこまでもつづいているんだね、というと、五〇〇番は沈黙で返事をする。そして時間が過ぎていき、例によってもう地球自身ですら何度めかを憶えてはいない夜明けが訪れ、そして、ペルシャンブルーのすばらしい景色が僕たちの全景をおおう。
そういうことを、僕は思っている。