2018-03-01から1ヶ月間の記事一覧
『ブラザー複合機』は梢の網を透かして入り込んでくる太陽の光と落ち葉の匂いに包まれた小道を進みながら不器用に動揺していた。動揺というものを初めてそのボディに感じていたのかもしれなかった。というのも、それは案内をすることは性能上お手のものであ…
『さかなクン』は打ちひしがれた。プライスカードや陳列用フックや仕切版どころではなく、そもそもの基底の什器までもがきくらげが並んでいるはずの場所からごそっと丸々脱落しているのだ。『さかなクン』はその場にくずおれた。猛烈な諸感情がこの数時間だ…
『ブラザー複合機』は「もんのすごい音」がしたところで変わらず普段どおりのイトーヨーカ堂の出入口に見るに堪えない恰好で立っているように存在した。『ブラザー複合機』が道案内をした、イトーヨーカ堂に用があったとしか推察できないあの声の高い男は「…
『さかなクン』は女販売員がスイングドアをくぐってバックルームに消えていくのを呆然と立ち尽くして見ていた。そして急に白けた気持ちになって、これはこれでわるくないかもな、とつま先でスレートか御影石か判別のつかない床のつなぎ目をいじりながら思っ…
「もんのすごい音」とオランウータンというオランウータンではない魔法少女志願のオランウータンが言った。 僕は瀕死の状態にありつつ、けれどもそこで天才的にある異和感のようなものを感じとった。もんのすごい音、だって? それは違う。 それは違うのでは…
気がつくと『さかなクン』はイトーヨーカ堂の「中華材料」コーナーの「きくらげ」売り場に突っ立っていることに気づいた。ずいぶんと遠くまで来てしまったような気もした。かれはキョロキョロとあたりを見回した。ふつうのイトーヨーカ堂だ。 なんだなんだ。…
『ブラザー複合機』は投棄された瞬間からきっかり三十分間、じっと沈黙したのち、魂のようなものを回復した。というよりも、宿した、と申し上げた方がどちらかといえば適切なのかもしれないが、どちらにせよさして違いはない。万物に魂は存在しうる。それだ…
僕は『ブラザー複合機』が下生えの茂みにうずくまっているのを三十秒くらい見た。何となく病気みたいな恰好だと思った。ぶるぶるとふるえる捨て猫のようだった。ぶるぶるとふるえる捨て猫を見たことはなかったが。 僕はこの『ブラザー複合機』を置いていった…
『さかなクン』はわけがわからなかった。というのも、どうしてこんなにコカ・コーラが飲みたくて飲みたくてしかたがないのか、かれ自身まるで見当もつかないのだ。コーラ、コーラとさながら亡霊のように呻いていた。かれが世界初の亡霊であることも考えられ…
インターネットで調べてみたところきくらげが何であるかはすぐに分かった。となりの『さかなクン』にそのことについて伝えたところかれは「ギョギョ!?」と一度、いつものように鋭く叫んでから、急にそわそわとし始め、 「コーラは何処だ?」とボソリと呟い…