この前の年の瀬のある夜のことだけれど、初めてちゃんと「忘年会」という名のついたお酒の会に顔を出してみた。……いや、初めてでもないのかもしれない。そういう、どこで何をした、という類いの記憶が幼少のころからぼんやりとしていて、ああまたボンヤリだよ、とことあるごとに気づくたびに、もうちょっとちゃんと生きようと決めたのにな、と前回のボンヤリ時のことを回顧するのである。……前回のボンヤリ? いつだったかな……
駅で迷った。急に現地集合になったためだった。そういうことするなよと思いながら駅ビルの狭い本屋で村上春樹の羊をめぐる冒険(下)の冒頭(
忘年会だった。
とある人たちは女の子がブスだと笑っていて、またとある人たちは就職やコンピュータ言語の習得について意見を交わしていた。みんなはよく知った顔ばかりだったけれど、実際に会うのは3、4年ぶりのことだったから、ブスな女の子も就職やコンピュータ言語も、いったん3、4年前の自分を通過させてから聞く、というようなことをして遊んでいたら疲れたので、やめた。忘年会だった。
僕はそもそも会話をすることじたい久しぶりのことだったので、ビールの助けを借りながら徐々に口をひらいては、閉じた。それを繰り返していると、うなぎの寝床のような個室が徐々にからだを受け入れ始めたので、よかった。
忘年会なのだから、みんなせーので「ぼうねーーーん!」とかやるのかと思っていたが(思っていない、これは言葉の
お開きになった後カラオケ(カラオケ!カラオケに自分がいるということのおかしさ!)に行ったりしたのだが、たぶんあれは平行世界の自分の行動とその追体験であると思うので、もう書くことがない。
ので、2019年に読んだ本のなかからよかったものをいくつか言います。
・タブッキの作品
これにかんしてはもうタブッキ作品としか言いようがないです。ひとつに絞るとかできない。
訳・解説の須賀敦子が言及するように、タブッキには「ゲーム性の目立った作品」と「抒情性ゆたかな詩的作品」のふたつがあるのだけれど、どちらもいいのだが、後者がとくに好き。『インド夜想曲』なんかはその代表。
前者だと『逆さまゲーム』がよかった。「カサブランカからの手紙」とか「土曜日の午後」とか。
ちなみに僕のオトモアイルーは「たぶっき」という名前です。
・須賀敦子『ミラノ 霧の風景』
上にも出てきた須賀敦子のエッセイ集です。
とにかく「文章がいい」のひとことに尽きる。これはちょっと、すごい。
美しい日本語? きれいな日本語? なんか違いますね。
村上春樹や高橋源一郎なんかの文体にならんで、僕はこれを「かわいらしい日本語」と呼ぶことにしました。
単行本のほうで読んでください。
・ジャック・ロンドン自伝的物語(マーティン・イーデン)
はい。ジャック・ロンドンの長編です。自身の半生を、マーティン・イーデンという青年に託して、自伝的に書いています。まずタイトルがいい。「自伝的物語」
そこそこ長いし(自伝的物語なので)、わりと退屈になることもあるけれど、それが自伝的物語ということですよね。
ジャック・ロンドン? 犬? という人(僕もそうでした)は反省して読め。
この前新装版も出たみたいですが、こっちのほうが装丁がしぶい。
・ジェームズ・ジョイス『ダブリンの市民』
そのまま、ジョイスがダブリンの市民を書いた短編集。ジョイスのダブリンに対する感情は完全に拗らせたオタクのそれなので、文章がよくないわけがない。
なにか劇的な場面があるわけではない、しかし、やはり劇的なのだ。
ユリシーズは、いつか、いつかかならず……という気持ち。
・武田綾乃『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章』(前、後編)
シリーズ全巻読め。
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ほかには『破壊しに、と彼女は言う』とか中期の大江とか読んだ気がしますが、よく覚えていないので名前だけ。
そこそこ列挙しておいてあれですが、2019年の後半、ほぼ半年まるまるろくに本を読まなかった。読む気が起きませんでした。モンハンとスケベ・ゲームしかしてません。
今年はちゃんとします。忘年だ。