[断片]


「弟を探しているんだ」僕はいった。

 五〇〇番はきまって僕の右側後方を歩いていた。

 

「いや、探しているというほど切羽つまった感じでもないな」僕はいった。

 北へ向かう道だけがぞっとするほど先までつづいていた。

 

「僕は、弟に会いに向かっているんだ」僕はいった。

 オーツ麦の日向くさい匂いがした。

 

「この道をひたすら北に向かえば、弟に会えるかもしれないって」僕はいった。

 西のはてに円錐形の高い山々が聳然としてそびえている。

 

「今ごろ、やつはどうしてるだろうか」僕はいった。

 北の大地から、死をはこぶ乾ききった風が吹いた。

 

「北のほうは寒いかな」僕はいった。