奇妙な夢


 百人くらいの人が入れそうな広場を、坊主頭が清めている、坊主頭は草や花の飾り物をのせた盆を携えやって来て、広場の中心に置き、そうであるべき姿にととのえる、何事かを唱える、去っていく、広場はもう、しかるべき舞台になっている、外面はただの空き地のままなのだが、ただよう空気の種類がどこか以前のそれと違っている、雑音を立ちどころに吸収してしまうような、スポンジっぽさみたいなものがあって、収縮したり、吸着したり、かたちを変えたり、拡散したり、もとの空気らしいものに戻ったりする性質をもっている、しばらくすると演者が入ってくる、ざっと見たところ百人はくだらない数の男たちが、うつむきがちに森の中から姿をあらわす、かれらは、褐色の肌をてらてらと勢いにまかせていて、肉桂色のやわらかな産毛には、新芽のような若々しさが残っているように見える、三十秒の空白があり、やっと百人強の男たちが舞台に出揃う、かれらはすでに、場を仕立てたあの坊主頭のお清めを受けている、だからかもしれない、男たちにはいっさいの穢れが感じられない、極端にいえば、去勢されているような存在の軽さがあるように思える、しかしかれらのうちのひとりとして去勢されてはいない、ほとんど全裸といった服装の下には、ほわばった膨らみが見受けられるのだ、気づけば、男たちは輪になって地面に座り込んでいて、舞台の中心にはひとりの無垢な少女が立っている、生まれたままの肢体で上衣の一枚も身につけず、つむじを空に真っ直ぐ向けて立っている、少女は立っているけれど、座っている男たちの座高に隠れてしまいそうなくらい小さい、今のこの瞬間、男たちは森になる、鬱蒼とした森が冷たい風にそよぐ、吹き抜けた風が少女の白い肌がほのかに火照らせ、裸の体は寒気にふるえる、しかしながら、手で体をさすったり、解したりはして気を紛らすようなことはしない、少女は手足をぴんと伸ばしたまま森の中軸に立ち、時の流れを待っている、それは突然始まる、地中奥深くから引きずり出されてくるみたいに、あるいは山奥の小さな谷から初めて水が湧き出てくるみたいに、それは重層化したうなりであり、ほとんど奇妙な行事だ、まず、少女を囲んだ男たちが天にも届きそうなくらいの声で歌い出す、いや違う、これは歌ではない、たとえるならばそう、これは詩に似ているかもしれない、抑揚とか転調だとかをかれらは知らない、かれらは天に請い、地に額をこすりつけ、森に溶けている、しだいに、うなりは男たちの声が生み出しているものだということがわかる、一寸の間隙もなく挟まれるかれらのうなり声が、独特の協和を醸し出している、何の言語にもない無国籍な声、動物の鳴き声にも聞こえる声は、うなりを伴って、すべてひとりの少女の体に注がれている、時間が消えて、少女は恍惚につつまれる、きちんと伸ばしたままの手足が僅かに痙攣し、目が虚ろになり、乳首が勃起する、男たちは畳み掛ける、かさにかかって、かれらにしか理解できない形式を保ちながら、少女に叫びつづける、少女の存在がさらにさらにと膨張していく、その光景を、天はじっと見守っている。