「人は島嶼にあらず」
僕がそう控えめな口調で言うと、彼女はレタスと貝割れ大根のサラダにサウザンドアイランド・ドレッシングを垂らす手を止めた。
「フレンチ・ドレッシングがいいのね?」
僕はゆっくりと首を振ったが、あるいはそうかもしれないとも思った。フレンチ・ドレッシングの方がサウザンドアイランド・ドレッシングよりも僕の好みであることは間違いない。
ただ当方の要点はそこではないし、それにサウザンドアイランド・ドレッシングはもはやサラダに宿命的に染み込んでしまっていた。
言わなければならないことがある。その言葉は長らく僕の心で燻り続けている。僕は横顔に僕が言葉の切り出すのを待つ彼女の真っ直ぐな視線をひりひりと感じていた。なかなか切り出しにくい状況だ。ただ、これを言うなら今しかないだろう。ここを逃してしまえば、取り返しのつかない事態にはまり込んでしまうのは必至だ。
ならば言おうじゃないか。ここが正念場だ。勇気を振り絞り、僕の本軸に勇気を染み込ませるにはかっこうの時分だ。
僕は軽く首を傾げ、彼女の真っ直ぐな視線を両目で受け止め、言った。