パスタ工場とアメリカと爆撃

 夜昼となく、空の上をアメリカの戦闘機がごうごうと飛び過ぎる間は、爆弾がふってくるんじゃないかと精神的に少し身構えてしまう。子供の頃、と前置いても良かったのだが、実際今になっても精神的にすこーしだけ身構えてしまうので、そうはしなかった。僕は正直者なのだ。
 
 僕の家は比較的アメリカ軍基地の近くにある。とは言っても基地からは何十キロと遠く離れてはいるのだが、アメリカ軍のalphabetとnumberを組み合わせて命名された戦闘機(爆撃機とかも聞いたことがありますが違いとか差とかは今いちよく知らない)にかかればひとっ飛びもいいところでしょう。alphabetだけの名前でも、それはそれは速いに違いない。スピードが数字に依っているのではなく、数字がスピードに依っているのだから。そんなわけで、未だに何の目的で戦闘機が飛び交っているのかこれまた知らないのだが、わりとしょっちゅう僕の上空を鋼鉄の高速飛行物体が、何本ものパスタを空にはり巡らしている。知らないことばかりである。秘密が轟音かまして空を飛んでいるらしい。
 
 落ちてくる(想像上の)爆弾の種類はよりどりみどりで、焼夷弾から原子力爆弾まで地が果てるまで空中地上で爆発し続ける。もちろん精神的に。そんな時、あれ? アメリカはいま僕らのミカタではなかったっけ? と時折首を傾いだりする。もちろん精神的に。こりゃあ歴史教育のたまものですぜグヒヒ、などと思ったりもする。昔アメリカはいろいろあっていろいろあった大日本帝国にいろいろなものをぽいぽいと投げ落としたりしたことは、まごうことなき歴史的事実である。みんな知っている。
 
 いまアメリカは本当に僕らのミカタなのか? 僕はそのことについても、もちろん何も知らない。
 
 かつてアメリカの飛行機はドレスデンに爆撃を行った。戦争の終結を早めるのが作戦の主旨であったらしい。かつてアメリカの飛行機はヒロシマナガサキに、戦争の終結を早めるためにalphabetの爆弾を落っことしたらしい。そのほかにも、戦争の終結を早めるために時空を超えてたくさんの塊がたくさんの場所にふりそそいだことだろう。スローターハウス5。そういうものだ。
 
 ときどき僕の上をアメリカの戦闘機が飛んでいく。何も落とさない。しだいに遠ざかっていく。僕の頭の中ではときどき、想像上の知らない爆弾が僕の上あたりにふりそそいでいる。それは戦争の終結を早めるための爆撃なのかもしれないし、何か他に意図があるのかもしれないし、そもそも最初から意図なんてものは全くないのかもしれない。は僕のまわりのこれらのことがもたらすさまざまに囁かれながら、遅めの昼食にパスタを茹でようかと台所で考えている。もちろん精神的に。