受け取りたまえ、きみの傘だ

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引越しをした。
荷解きだとか、家電の搬入だとか、役所への手続きだとか、すべて初めてのことなのに、それを自分がしているという感じがあまりなく、気づけばこうして、バルコニーに干された無印良品の長袖シャツとか電気温水器のなかでポタ、ポタとどこかへと漏れていく冷めた水滴を音を聞きながら、冷たすぎる足首の確かな冷たさに困りながら、青い傘をさしだすもう名前もおぼえていないおじいさんの画を一枚、貼りました。

引越しなんてことをしたのだから、何か言うべきこと、言いたいことがいくつかあってもいいようなものだけど、まったくない。部屋が寒いことと、冷蔵庫の扉が部屋のローテーブルにぶつかって三分の一しか開かないことと、暖色のLED電球がかえって部屋の空気を暗く重くしていることと、それくらいしか思いつかない。小説を読む気も起きない。マリア様をみてる29、30、31、32を昨日の、いや今日の夜の三時すぎにアマゾンで注文した。それは今すぐ読みたい。おれは何をしているんだ?

もやしとピーマンとチンゲン菜の豚バラ塩炒め、レタスの豚ロース巻き、高菜チャーハン、豚キムチ、大根と豚挽き肉の辛煮。引っ越してから作って食べたものを、今はまだかろうじて憶えているけれど、たぶん来週は来週のことしか憶えていないだろう。繰り返し。また繰り返しのうずにぐるぐると呑み込まれてしまった。なんとなくかなしいね。

 

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二週間弱かけて、マリア様がみてるのアニメを全部観た。すごかった。源流をたどっている手ごたえがある、という感じだけの期間はそこそこで吹き飛び、リリアンというものが自分のなかで巨大な空間を占めてしまった。アニメにおいて、作品そのものを好きになるというのはずいぶんと久しくなかったので、かなり動揺している。4thシーズンのオープニングとかすごすぎて失神しそうになりました。
何がすごいとか、どこで感動したとか、そういうことを、いつしか言葉にまとめることができなくなってしまった。純粋に作品を楽しめている自分と、何も言葉にできない空っぽな自分。そのふたつが自分のなかで重なったとき、ちょっともう無理なんじゃないかな、というどん底がすぐそばにあって、その二、三メートルうえで金縛りにあっているような状態になる。ちょい無理どん底に落ちちゃうこともないけれど、金縛りにあっているからうんともすんとも言えないし身動きもできない。すぐそばにやばすぎるどん底があって、動けね~~~でも落ちね~~~となっている。それだけ。それだけ……………………

 

お金を稼げるようになったら、原作小説ぜんぶ読みます。